輝きの川

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time / 15min 52sec

year completed / 2009

music / habuka yuri

sound design / miyazawa shiori

初めての“作品”

「輝きの川」は作品としては荒削りな部分が多いものの、制作の過程で全力を尽くせたという点で、僕にとってとても大事な作品です。自分の代表作を一つ挙げろというのであればこの作品ということになります。「“作品”とは画面の隅々まで神経をいき渡らせ、確かに自分の手で作ったと思えるものでありたい」という、言葉にするといささか気恥ずかしいんですが、そういうことを割と真剣に考え作った作品でした。今でもそれはそうだと思っています。

 

この作品は東京藝術大学デザイン科の卒業制作であり、自分の作家としてのデビュー作、ということになるんでしょうか。それまではせいぜい同級生が見るくらいの範囲で小作・習作を作っていましたが、四年間の集大成として上に記したような“作品”を初めて作るぞという意気込みでいました。集大成と言っても、「輝きの川」で採用した制作手法は、それまでの三年間に一度も作ったことのなかった切り絵アニメーションでした(「輝きの川」を作る直前に技術的テストとして「あの日、あのとき」という作品を作っています)。マルチプレーンの撮影台は大きいので、立ったりしゃがんだりガラス板のあちこちに手を伸ばしたりと全身を大きく使って作るその過程が、作品に自身のアイデンティティを求めていたそのときの自分にとてもしっくりきたのです。ライティングで画面の隅々の見え方にまで神経を使う作業も心地よかった。1フレーム毎に画面に「手の跡」を残すというつもりでやりました。

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絵コンテ代わりのスケッチやコンセプトアート

制作時間のミステリー

制作中の時間感覚についてははっきりとは思い出せません。何故三ヶ月という期間で15分強のアニメーションを作れたのか、今となっては大きな謎です。

覚えている事実としては

 

・シナリオが決まってから、実際に撮影していた製作期間はおよそ三ヶ月である。

・撮影順は作品のカット順とほぼ同じで、大きな場面毎に、「背景などの素材を一通り作る」→「まとめて撮影」→「PCでざっくりコンポジットし動画にして確認」→「次の大きな場面の素材を作る」…という流れで進めていった。

・ワンルームの部屋で、撮影台とパソコンデスクのすぐ後ろに布団が敷きっぱなしになっており、作業を出来る限りして、眠気を感じたら即布団に入り、1〜2時間で目を覚まし、また集中が切れるまで5、6時間程作業するというペースで進めた。(これがその当時考えた最も効率良く長期に渡って作業出来る方法だった。)

 

という感じでした。 〆切に追われて焦ったという記憶はないですが、凄いものを作ってやるぞ!という気持ちは強く持っていたので、必死にやりました。簡単な方法と難しい方法があったときは、嬉々として難しい方法を選びました。「他の人がやらない」というのは大きな強みだと思ったからです。

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セルや布に描かれた撮影素材達

発明のエネルギー

今までに慣れ親しんできた手法を使わないということで意外に思われたりもしましたが(それまでは作画中心の2D作品を作っていました)、そのおかげというのか、ほとんど技術的なノウハウのなかったこの作品の制作には多くの“発明”があったことが良かったと思っています。“発明”というと大袈裟かもしれませんが、自分で考えた工夫ややり方のことです。恐らく、世界には切り絵でコマ撮りをする為の進んだ技術や知識といったものは沢山存在していると思いますが、あえてそういったものを見ようとはしませんでした。それよりも街で見かけるものを、常に「この素材や要素は作品に使えないかな?」という視点で見ていました。撮影に水や布やスパンコールなど色んな素材を使ってみたり、ライティングの仕方をあれこれ試したり、実験だらけの制作でした。思った通りの効果が生み出せたときは嬉しかったし、そこに自分印がついたような気がしました。その一つ一つは世界のどこかで既に誰かが実行している何でもないアイデアだったと思います。何かそういった技術について書かれている解説書などを読んだ方がずっと効率がよかっただろうし、勉強することも重要だと思っています。でもどんな些細なことでも、何かを見て知ったことと自分で考え実践したこととでは、そこに込められるエネルギーの量が違ってきます。その僅かな量の差が最終的に作品の強度を一段違ったものにするのだと考えていました。

そのことに少し通じる話ですが、コマ撮りの為のプレビューソフトも使いませんでした。動きの出来はそのカットを撮り終わってみて、PCにデータを移し、動画にしてみるまで分かりません。もしうまく出来ていなかったらやり直しです。実際やり直ししたカットも、多くはないですがいくつかありました。1カットの撮影時間は10時間を越える場合もありました。プレビューがないことで一度撮影を始めたら途中で止められないので肉体的にも精神的にも結構大変です。もちろんプレビューソフトの存在は知っていましたが、あえて途中でプレビューせずに動きを生み出すことに緊張感を出したかったのです。そういう変な苦労を進んで求めていた時期でした。場面によっては画面の中に動くものが10個以上あるようなカットもあり、それぞれの動きを記憶しておくのがとても大変でしたが、その為に発揮した集中力はきちんと画面にも出ているんじゃないかと思います。今では仕事でコマ撮りをするときには効率と正確性を求めてプレビューソフトを使うようになりました。実際とても便利で、そのことで精度が上がったり便利になった部分は沢山あります。それでもあのとき1コマ1コマに魂を込めていくかのような儀式的作業は、当時必要なことだったと思っています。

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当時の撮影の様子

「輝きの川」の音

映像作品は画と音の二つがあって初めて出来上がるものなので、音については非常に重要視していました。同じ藝大の音楽環境創造科に通っていた羽深由理さんが音楽を、宮澤詩織さんがサウンドデザインを担当してくれ、プロット段階から一緒に作品を作っていきました。生音に拘った音楽も、5.1chサラウンドで作られた音響も、声優(の学生)さん達にお願いした本格的な声の演技も、当時学生作品としては前例のない規模とクオリティだったと思います。僕は音については畏敬の念を持ちながらまるで知識がないので、シーンのムードや必要な演出などについては口を出しつつ、基本的には羽深さんと宮澤さんに丸投げのような形でした。なんとかいいものにしてくださいと。自分の作品に関することとなると随分と図々しくなるものです(当時もまあ自覚はありましたが)。なので僕がお二人の苦労を語ることは恐れ多くて出来ませんが、素晴らしい音を創り上げてくださったことにとても感謝しています。この作品に関わってくれた人達は全員が学生という立場でしたが、それぞれが専門に学んでいることを発揮し合って一つの作品を作っていくということに楽しさと責任を感じていました。

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