個展「ぼくの街においでよ」のこと その1

P9290013

昨年9月末に個展「ぼくの街においでよ」を開いてからもう半年以上が経った。初めての個展、終えたらその総括でも書けたらなとぼんやり思っていたのだが、すっかり機を逃してしまった。そろそろ次の個展でもと考えていた折、このまとめを放り出したままではなんだか気まずいなとふと思い、今更ながらに昨年の個展の事を振り返ってみることにした。半分自分の為の記録として準備段階からあったことを片っ端から書いていくことにする。長くなってしまったので前後半に分ける。ちなみに展示風景やグッズの写真などは「WORKS」の「exhibition」ページにより詳細にまとめたページを作った。

 

「個展をしたい。」という気持ちが昨年の始めくらいにポカリと浮かんできた。それは今まで探り探りであった自身の絵のスタイルが、ようやくある程度の強度を持ち始め、今であれば作家として展示が出来そうだと感じたからだった。とはいえそれまでに反響があったのはアニメーションの作品だったので、自分の絵にどれだけの人が関心を示してくれるのだろうかということは正直不安だった。

 

個展をやろうと思ったはいいものの、それまで展示の経験がほとんどないだけでなく、人の展示を観るということすらもまともにしたことがなかったので、昨年の上半期は積極的に他の作家さんの個展に足を運んだ。大きな美術館で絵画を鑑賞するのと違って、小さなギャラリーで行われている個展では、作品や作家さんを身近に感じられ、その気になれば購入も出来るので、家具を選ぶような視点で作品を観られるのも楽しかった(実際作品を買わせてもらったりもした)。そうした中で、自分だったらギャラリーの中にどんな空間を作りたいか、どんな絵を展示したいのかイメージを固めていった。

 

展示場所は希望の都心エリアにあること・絵の雰囲気に合うこと・広さが十分であることなどを条件に探した。その中で以前に知人の個展を観に訪れたことがあったAmerica-Bashi Galleryの雰囲気が良かったなと思い、自分もそこを借りる事に決めた。日程を決め予約をしたのが昨年6月くらいだったと思う。開催の3ヶ月前というのは結構遅めのタイミングであるようだった。半年くらい前には予約を入れている人が多く、人気のギャラリーではその時点で既に年内の予定が埋まっていたりした。

 

そこからの3ヶ月間はまさに怒涛の日々だった。場所と日程を決めた時点ではまだ何も作品がなかったので、一から全て描き上げなくてはならなかった。展示作品をまとめた作品集を是非作りたかったので、入稿のタイミングを考えると制作期間は実質2ヶ月間しかなかった。他の作家さんの展示を観たときの印象を踏まえて最低でも20枚、できれば25枚ほどの絵を描こうと決めた。2ヶ月間という制作期間を考えると2・3日に1枚のペースで描き続けなければならない。なので最初に全作品分の構想・スケッチをまとめてやってラインナップを決めてしまい、それを片っ端から描いていくという方法をとった。そうすれば全体の統一感について途中で悩んで手を止めなくても良い。

 

絵1枚に割り当てた制作時間は、自分の制作ペースからすると決して短くはなかったが、それでもやはり20枚以上の絵をひたすら描き続けるというのは身体的にも精神的にもかなりしんどくもあった。この間従来のアニメーションの仕事も抱えていたが、そちらはアシスタントさんに作業をほぼ任せる形で、僕はひたすら個展の為の絵を描いていた。ずっと絵を描き続けていると何が良いのかを判断する感覚が鈍ってくる。普段であればそんなときは少し時間を空けて気持ちをリセットしてからまた絵と向き合えばいいのだが、このときにはそうしたことをする時間的余裕がなかったので、砂漠の中を地図もなく進むような不安に駆られながらも、とにかく最初に決めた自分の感覚を信じて手を動かし続けるしかなかった。

それでも1枚ずつ着実に描き進め、出来た作品は早速額に入れて壁に掛けてみたり写真に撮ってみたりして、その仕上がり感を自身で堪能することで自分を励まし、最終的に23枚の作品を描くことが出来た。時間と気力切れで2、3枚描けなかった絵があったが、それでも展示ボリュームとしては十分な量になったんじゃないかと思う。

IMG_1025
IMG_1162
IMG_1517
IMG_1633

残りの1ヶ月で作品集を始め様々なグッズを制作した。絵のサイズが大きく、自宅のスキャナーではデータ化出来無いので、今回初めて絵画の撮影を専門の業者に依頼した。費用もそれなりにかかったが、作品集やポスターなどの印刷物にしたときにはやはり段違いに綺麗だった。グッズを作ったりするのは昔から好きで、ここらへんは大学で曲がりなりにもデザイン科に属していた故かなと思う。作家の個展にしては少し大袈裟な点数を作ってしまったようにも思ったが、半分趣味みたいなものなので良しとする。(結果的にはよく売れたし、喜んでもらえたんじゃないかと思う)

作品制作という大きな山は超えた安堵感はあったものの、各種グッズの入稿やSNS上での告知など、タイミングを見計らいながら進めなければいけないものも多く、それなりに煩雑な日々を過ごしていた。キャプションや挨拶文、物販時の注文票作りなど細々と準備しなきゃいけないものも色々あった。

IMG_1732 IMG_1752

そうしてついに展示初日を迎えたのだが、この日に関しては大いに反省点を残すことになった。準備と搬入に手間取り、事前に告知してあった開始時間を1時間も遅らせてしまった。Twitter上でアナウンスし、ギャラリーの扉に開始が遅れる旨を書いたメモを貼り付け、大急ぎでセッティングをしていたが、開始時間ピッタリに来てくれ、1時間待たされたか諦めて帰ってしまった人も居たんじゃないかと思うと今でも本当に申し訳ないと思う。今後このようなことは絶対に繰り返さないようにしたい。

ともあれ人生初の個展は幕を開けた。

 

つづく